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福島地方裁判所 昭和26年(行)3号 判決

原告 佐藤留四郎

被告 奥川村農業委員会・福島県農業委員会・佐藤藤雄 外三名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、「被告奥川村農業委員会が昭和二十三年十一月九日にした別紙物件目録記載の農地について売渡の相手方を原告と定めた売渡計画を取り消す旨の決議を取り消す。被告奥川村農業委員会が昭和二十五年一月十日別紙物件目録記載の農地について売渡の相手方を被告佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイと定めた売渡計画を取り消す。被告福島県農業委員会が昭和二十六年二月五日原告の訴願を棄却した裁決を取り消す。原告と被告佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイの間で原告が別紙物件目録記載の農地について所有権、耕作権を有することを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、別紙物件目録記載の農地はもと佐藤治郎兵衛の所有であり、昭和二十二年七月二日不在地主の所有小作地として政府に買収せられ、被告奥川村農地委員会(以下村農委という)は昭和二十三年三月十六日右農地について売渡の相手方を原告と定めた売渡計画(以下第一の売渡計画という)を立てたのであるが、同被告は同年十一月九日右売渡計画を取り消す旨を議決し、昭和二十五年一月十日右農地につき別紙一覧表記載のとおり売渡の相手方を被告佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイ等と定めた売渡計画(以下第二の売渡計画という)を立てた。しかし被告村農委は右第一の売渡計画が取り消されたこと並びに第二の売渡計画が樹立されたことを原告に通知しなかつたので、原告は昭和二十五年三月に至り漸くその旨を知り同月三十日被告村農委に対してこれ等に関する異議の申立をし、更に同年十一月四日被告福島県農地委員会(以下県農委という)に対して訴願を提起したが、被告県農委は昭和二十六年二月五日訴願棄却の裁決をし、同裁決書は同年三月四日原告に送達された。しかし被告村農委がした第一の売渡計画を取り消す旨の議決には次の(一)ないし(三)のようなかしがあり、また被告村農委が立てた第二の売渡計画は次のようなかしある議決を前提とする違法のものである上、それにはなお(四)に述べるような違法な点がある。すなわち(一)農地委員会が自己のした処分を取り消すには委員会の議決を経なければならない。このことは昭和二十二年法律第二百四十号により一部改正せられた農地調整法(以下農調法という)第十五条の十八の規定により自明のことである。しかるに被告村農委は第一の売渡計画を取り消す旨の議決を成立せしめるにつき、委員会の審議、議決を経ることがなかつたから、右議決は単に形式上存在するに止まり、取消の効果を生ぜしめない。(二)右農調法第十五条の十八の規定によれば都道府県知事が市町村農地委員会に対して再議の請求をしうる期間は市町村農地委員会の議決があつた日から一月以内であり、従つてまた市町村農地委員会が自己のした処分をみずから再議するのも右同様の期間内であるべきである。被告村農委が第一の売渡計画を取り消す旨を議決したのは第一の売渡計画を立てた昭和二十三年三月十六日から七カ月を経過した同年十一月九日である。従つて右議決は右農調法第十五条の十八の規定を無視した違法がある。(三)仮に市町村農地委員会が前叙一月の期間を経過した後においても自己のした処分を取り消すことができるとしても、なおその処分が取り消し得べき状態にあることを要する。被告村農委は昭和二十三年三月十六日別紙物件目録記載の農地につき売渡の相手方を原告と定めた売渡計画すなわち第一の売渡計画を立て、その後売渡手続が進展して福島県知事は右農地に関する売渡通知書を原告に交付し、更に原告は昭和二十四年二月二十五日右農地の対価を支払つたのであつて、右農地の所有権はその売渡の時期において確定的に原告に移転したものである。そしてかような事実若しくは秩序を破壊しても、その基礎となつた売渡処分にこれが取消を必要とする丈の重大なかし若しくは取消により重大な法律秩序の発生を期待できるというのであればとに角、そのような事情が存在しない以上、農地の売渡処分が既に右のような段階に達したときはこれを取り消すことは許されない。第一の売渡計画には右のような特別の事情がないから同処分はこれを取り消し得べき状態にはないというべきである。(四)被告佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイ等は別紙一覧表記載のとおり買収の時期において耕作の業務を営んでいた同物件目録記載の農地につき、いずれも自作農創設特別措置法(以下自創法という)施行規則第八条所定の買受申込書を被告村農委に提出して買受の申込をしたものではなく、従つて同法第十七条が定める買受の申込をしたものではないのであるから、これら被告に対する売渡は違法である。かような次第で被告村農委のした第一の売渡計画を取り消す旨の議決並びに被告村農委が立てた第二の売渡計画はいずれも違法であり、これを維持して原告の訴願を棄却した被告県農委の裁決もまた違法であるから、これ等の取消を求めるとともに、被告佐藤藤雄、佐藤丑蔵、佐藤周三、猪俣ヨシイ等は被告村農委の違法な第二の売渡計画を前提として別紙物件目録記載の農地につき別紙一覧表記載のとおり売渡を受けたのであり、第二の売渡計画が取り消さるべきものである以上右農地の所有権を取得することができないから同被告等は右農地の所有権を有するものではなく、右農地の所有権並びに耕作権は原告にあるわけであるのに、同被告等はこれを争うから、その確認を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告等主張事実のうち、原告が別紙物件目録記載の農地につき買収の時期に至るまで耕作の業務を営んだことのないものであることは認めるが、第一の売渡計画は次の理由により違法ではない。自創法第三条の規定により買収された農地につき第一順位で売渡の相手方となるべき者は買収の時期においてその農地につき耕作の業務を営む小作農若しくは昭和二十年十一月二十三日現在においてその農地につき耕作の業務を営む小作農であるが、これ等の者がその農地について耕作をしないつもりで買受の申込をしないときは自創法施行令第十八条の規定によりまず、同法第十八条の規定による農地の売渡計画を定める時期において耕作の業務を営む小作農、次に市町村農地委員会が自作農として農業に精進する見込のある者と認める者がその売渡の相手方とされる。別紙物件目録記載の農地につき買収の時期において耕作の業務を営んでいた小作農である被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等はいずれも自創法施行規則第八条所定の買受の申込書を被告村農委に提出しなかつたものであり、他方、原告は同農地につき売渡計画を定める時期においてその耕作に従事する者であり、且つ農業に精進する見込のある者であるから、同農地の売渡の相手方は原告と定められるべきものであると述べた(証拠省略)。

被告等は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告の主張事実のうち、別紙物件目録記載の農地がもと佐藤治郎兵衛の所有であつたが、昭和二十二年七月二日不在地主の所有小作地として政府に買収されたこと、被告村農委が原告主張の如く右農地につき売渡の相手方を原告と定めた第一の売渡計画を立て、原告が福島県知事から右農地に関する売渡の通知書の交付を受けて昭和二十四年二月二十五日農地の対価を支払つたこと、被告村農委が原告主張の日に右売渡計画を取り消す旨を議決し、更に同農地につき原告主張のように売渡の相手方を被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等と定めた第二の売渡計画を立てたこと、被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等が右農地買収当時同農地につき耕作の業務を営んでいた小作農であること、被告村農委がした第一の売渡計画を取り消す旨の議決並びに同被告が立てた第二の売渡計画に関して原告がその主張するように異議の申立、訴願をし、被告県農委が右訴願を棄却する裁決をしたこと、同裁決書が原告主張の日に原告に送達されたことを認めるが、その余の事実はこれを否認する。被告村農委が右取消をした理由は次のとおりである。原告は別紙物件目録記載の農地について、かつて耕作の業務を営んだことがないから、到底同農地につき売渡の相手方となるべき適格を有するものではなかつたのに、被告村農委は誤つてこれを原告に売渡す第一の売渡計画を定めてしまつたので、これは違法な処分であつた。そして処分行政庁は自己のした処分に顕著な過誤が存在し違法なものであれば、これを是正することができるのであるから、被告村農委は右の過誤を是正するために右取消処分をしたまでである。また被告村農委は第一の売渡処分をした後改めて別紙物件目録記載の農地につき、買受の申込を求めたところ、被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等が買受の申込をしたので、同人等を売渡の相手方となるべき者と認めて第二の売渡計画を立て昭和二十五年一月十日その旨を公告した。従つて右取消処分、第二の売渡計画、これを維持した被告県農委の裁決は、いずれも決して違法のものではなく、従つて原告はその所有権者でもなければ、耕作権を有する者でもないと述べた(証拠省略)。

三、理  由

別紙物件目録記載の農地が昭和二十二年七月二日不在地主佐藤治郎兵衛所有の小作地であるとの理由で買収されたこと、被告村農委が昭和二十三年三月十六日同農地につき売渡の相手方を原告と定めた売渡計画(第一の売渡計画)を立てたが、昭和二十三年十一月九日右売渡計画を取り消す旨の議決があつたこと、ついで同農地について別紙一覧表記載のとおり売渡の相手方を被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等と定めた売渡計画(第二の売渡計画)を立てたこと、原告が第一の売渡計画の取消並びに第二の売渡計画に関し昭和二十五年一月三十日被告村農委に対して異議を申立て、更に同年十一月四日被告県農委に対して訴願を提起したが、昭和二十六年二月五日これを棄却され、同年三月四日同裁決書を受領したことは当事者間に争がない。そして証人薄享二、長谷川貞喜の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、被告村農委が昭和二十五年一月第二の売渡計画を公告したことが認められる。証人三瓶虎雄の証言のうち右認定に反する部分は信用しない。

原告は本件第一の売渡計画の取消の議決は被告村農委の審議、議決を経たものではないから取り消されるべきであると主張するが、農地委員会の議決機関による審議、議決は農地委員会がする処分の前提要件であり、これを欠く処分はたといそれが形式的に存在するとしても、そもそも有効な行政処分として成立するいわれがない。してみれば処分の不存在若しくは無効の確認を求めるのであればとに角、被告村農委の審議、議決を経由しないことを理由として議決の取消を求める右主張はそれ自体矛盾である。それのみではなく、証人薄享二の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証に証人薄享二、長谷川貞喜の各証言を総合すれば、被告村農委が昭和二十三年十一月九日開いた会議において第一の売渡計画に関し売渡の相手方を原告と定めたことの可否を審議した上右売渡計画の取消を議決したことが認められる。証人三瓶虎雄、矢部喜四郎、玉木清二の各証言のうち右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠がない。

ところで被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等がいずれも右農地につき別紙一覧表記載のとおり買収の時期において耕作の業務を営む小作農であることは当事者間に争がない。原告は被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等が右農地について買受の申込をしていなかつたと主張するのでこの点について考えるに、証人長谷川貞喜、薄享二の各証言及び被告猪俣ヨシイの本人尋問の結果を総合すると、別紙物件目録記載の農地について買収処分完了後被告村農委が売渡の相手方を選定するに際し、右被告四名は被告村農委に対して買受の申込をしたことが認められる。なる程本件第一の売渡計画樹立当時施行されていた自創法施行規則第八条の規定によれば自創法第十七条の規定による買受の申込をするには所要事項を記載した申込書を当該農地のある市町村農地委員会に提出しなければならないが、自創法は、同法第十七条の規定による買受の申込につき、その方式を定めることを施行規則に委任してはいないのであるから、右施行規則が買受の申込を書面によらしめた所以は申込の明確化という行政上の便宜をはかるためであつて、書面によらない申込を違法無効とする趣旨ではないと解される。しからば被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等のした前示買受の申込がたとえ自創法施行規則第八条所定の方式に違背したものであるとしても、その申込が無効のものであるとはいえない。従つて右被告四名は別紙物件目録記載の農地につき第一順位で売渡の相手方となるべき者であつたわけであるのに、これをさしおいて原告を売渡の相手方と定めた本件第一の売渡計画は違法なものであつたといわなければならない。

次に原告は被告村農委の本件第一の売渡計画を取り消した議決が昭和二十二年法律第二百四十号により一部改正せられた農調法第十五条の十八の規定による一月の期間を経過した後になされたものであるから違法であると主張するが、右規定は都道府県知事が市町村農地委員会に対してする再議の指示の期間について規定するに止まり、農地委員会が自己のした行政処分をみずから取り消す場合の期間について規定したものではないから、右主張は理由がない。

更に原告は農地委員会が自己のした処分を取り消し得るのは処分が取り消し得べき状態にあるときに限るのであり、処分により形成された事実状態が確定した後は原処分を取り消すことができないと主張するのである審究するに、行政処分の手続、形式又は内容が法規に違反するときは処分行政庁はその違法な行政処分を取り消すことができると解すべきである。ただ当該処分により既に権益を得た者が存し、一旦法律秩序が形成せられたときは公の権威を以てしても既得の権益若しくは既成の秩序を動かすべきでないからこのような場合処分庁がみずから取消をするには取消を正当化するに足りる特段の事情、すなわち当該処分によつて生じた秩序権益がその取消によつて受ける不利を考慮してもなおその違法処分をそのままに放置することが公益に適しないという事情が存することを要する。原告は被告村農委の立てた第一の売渡計画が取り消し得べき状態にはないと主張し、その趣旨が第一の売渡計画が形式的に確定したものであることを理由とするのが明らかでないが、果してこれを理由とするものであるとすれば、行政処分が形式的に確定することはその処分につき異議の申立、訴願若しくは訴の提起により争うことができなくなつた状態をもたらすだけで、処分行政庁の職権による取消の場合は別個の問題であるとともに、処分が形式的に確定したことは違法な処分を適法化するものではないから、処分の形式的確定は処分行政庁みずからがする取消を阻止するものではなく、前示の要件が満たされる限り処分はなお取り消し得べき状態にあるというべきである。

本件第一の売渡計画が違法であることは前示認定のとおりであるが、原告が福島県知事から別紙物件目録記載の農地に関する売渡通知書の交付を受けたことは当事者間に争がないから原告はその通知書に記載された売渡の時期に一応右農地の所有権を取得したものというべきであるとはいえ自創法第十六条、同法施行令第十七条、第十八条に定める売渡の相手方となるべき者の順位は厳格に遵守せられるべきものであり、この順位の誤は当該農地の耕作者を自作農たらしめることを目的とする自創法制定の本来の趣旨を没却することになる。従つて被告藤雄等四名が右農地買収当時これを耕作する小作人であり、原告がそうでないこと前述の如くである以上原告に売渡令書が交付されて後一月余りを経たのみの時に被告村農委がした第一の売渡計画の取消は相当であり違法でないといわなければならない。

次に第二の売渡計画について見るのに被告村農委が昭和二十五年一月十日別紙一覧表記載のとおり売渡の相手方を被告藤雄、丑蔵、周三、ヨシイ等と定めた第二の売渡計画を立てたこと、同被告等を右農地買収当時同地につき耕作の業務を営んでいた小作農であること、右被告等四名が被告村農委に対して買受の申込をしたこと、その申込が自創法第十八条第三項、第十七条の規定する買受の申込として有効なものであることは前示認定のとおりであるから、右売渡計画は適法なものというべきである。従つてこの点に関する原告の主張もまた理由がない。

また原告は第二の売渡計画が取り消されるべきものであるから、別紙物件目録記載の農地の所有権は第一の売渡計画に基き売渡を受けた原告にあると主張するが被告村農委がした第一の売渡計画の取消、同被告が立てた第二の売渡計画はいずれも適法であることは前示認定のとおりであるから、原告は右農地につき所有権耕作権を有するものでないこととなり右主張は理由がない。

以上の次第であるから本件第一の売渡計画の取消処分、第二の売渡計画は正当であつて、原告主張のようにこれを違法と認めるべき点は存しない。

よつて原告の本訴請求はいずれもその理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 間中彦次)

(目録省略)

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